近年、大麻合法化の風潮やCBD産業の成長に伴い、日本でも「大麻」や「麻」といった文字を見かける機会が増えました。そして、ヘンプマリファナはしばしば混同して語られます。

CBDと麻の正しい文化を理解するためには、ヘンプとマリファナの違いと、それらがどのような影響を与えるのかについて理解することが重要です。

ヘンプとマリファナの違いは何?

「ヘンプ」と「マリファナ」はどちらとも大麻であり、大麻を特定の要因に基づいて分類したものです。

ヘンプとマリファナは、一般的には植物の「」または「系統」の違いと考えがちですが、実際にはそのどちらにも該当しません。

アサ、英名Cannabis)は、学名をカンナビス・サティバ (Cannabis sativa)といい、中央アジア原産とされるアサ科アサ属の一年草です。

大麻草(たいまそう)とも呼ばれるほか、日本では大麻(たいま)という呼び方が一般的化しています。

そして、大麻には代表的な3つの種が存在します。それが、Sativa(サティバ)、Indica(インディカ)、Ruderalis(ルデラリス)です。

ヘンプとマリファナは、私達の文化(主にアメリカの大麻文化)の中で生まれた非常に大まかな分類です。これらは、植物上の科学的な分類方法とは全く異なります。

頻繁に誤解を生むこの用語の問題を解決するために、ヘンプとマリファナの違いを明らかにし、これらの用語が実際に意味するものを探っていきましょう。

ヘンプとは

「ヘンプ」は、THC含有量(乾燥重量)が0.3%以下の大麻を分類するために使用される用語であり、2018年の米国の農業法によって法的な定義が認められました。

しかしそれまでにもヘンプは、産業利用のために収穫される”無毒”な大麻を示すために使用されてきました。そのため、ヘンプを日本語に訳す場合は「産業用大麻」という言葉が妥当でしょう。

大麻は古来より、食物、ロープ、衣類、紙、住宅資材など、重要な資源として幅広く活用されてきました。

人類の生活に深い結び付きがあり、人類の初期段階における技術革新の触媒として、一万年以上の付き合いがあると考えられています。

マリファナとは

「マリファナ」は、THC含有量が0.3%以上(乾燥重量)含む大麻の種類を分類するために使用される用語で、使用者に向精神作用をもたらすことがあります。

この用語は人が大麻について話す際に広く用いられていますが、実は、一般的に用いるのにはひどく不適切な意味合いも持ちます。大麻産業に通じた有識者の多くはこの用語の使用を嫌い、この言葉を用いる一部の人を「人種差別主義者」であると批判する人もいるそうです。

米国における大麻の歴史の初期では、「マリファナ」という用語は存在せず、「大麻」が一般的でした。

1910年〜20年の間に、メキシコ革命からの非難を求め、約100万人のメキシコ移民が米国にやってきました。この際、米国における反メキシコ人感情が上昇しはじめ、メキシコ移民の多くが使用し、大部分がメキシコから輸入されていた大麻を目の敵にするようになりました。

そこで生まれたのが「マリファナ」という言葉です。このあとすぐに噂が流れ始め、「メキシコの大麻」を使用することで人が危険や殺人を犯すようになるという”デマ”を米国民が広く信じるようになりました。これは同時に、反メキシコ感情の一層の高まりにも繋がりました。

マリファナに対する否定的な認識が強まるにつれて、米政府は大麻を急進的に取り締まるようになります。1927年までに、11の州が反マリファナ法を可決し、1930年代までには国家ぐるみの「反マリファナ」の宣伝や、映画「リーファーマッドネス」などによって、国民に大麻に対する恐怖心が本格的に植え付けられました。

1937年にはマリファナ税法が成立し、大麻に対して法外な額の税金がかけられました。これによって「マリファナ」は実質的に禁止され、それ以来約80年間の大麻禁止への道が開かれました。捜査局は大麻の取り締まりによって多額の利益を得たとも言われています。

ヘンプとマリファナがもたらす混乱

歴史的文脈では、ヘンプとマリファナを説明するためには、植物中に含まれるTHCの量(使用者に向精神作用を与えるかどうか)という単一の要因に基づいています。

植物が持つ中毒性はもちろん考慮するべき重要な項目ですが、単一の特性だけでヘンプまたはマリファナを分類してしまうと、大麻の捉え方は歪み、多様性を理解できなくなります。

わかりやすいように、柑橘類の果物の分類学的な階層構造と比較すると以下のようになります。

上記の表に描かれているように、大麻をヘンプまたはマリファナに分類することは、沢山の種類がある柑橘類を甘いものと酸っぱいものの2つに分けることに似ています。これでは、それぞれの果物の多様性を認められません。

さらに問題があるとすれば、ヘンプとマリファナは外見であまり見分けがつかない場合があります。米国では、マリファナと同じに見える合法なヘンプを、執行官が逮捕してしまう問題が既に発生しています。

このように、大麻を正しく表現していない「ヘンプ」と「マリファナ」の分類には欠陥がありますが、既にこれらの用語は私達の社会に深く染み込んでしまいました。

この問題を解決するには時間をかけて社会を再教育する必要がありますが、まだまだ時間がかかるでしょう。それまでの間、少なくともヘンプやマリファナの意味を知り、それらが社会にどのような影響を与えているかを把握することが大切です。

ヘンプとマリファナを徹底比較

ヘンプとマリファナは多くの共通点を持ち、時には全く同じに見えることさえあります。

しかし、それらがもたらす作用や使用目的、法規制などの観点で、これらを混同すると良くありません。ヘンプとマリファナを区別するための、4つの重量な違いを紹介します。

ヘンプとマリファナ①組成

ヘンプとマリファナの大きな違いは植物中に含まれる成分の化学組成です。ヘンプ・マリファナは、共に多くのCBDを生成できますが、THCに関しては含まれる量が全く異なります。

「ヘンプ」は乾燥重量でTHC 0.3%以下ですが、「マリファナ」は、品種によっては30%以上のTHCを含む場合があります。実に100倍以上の差です。

CBDとTHCの構造の化学式
CBDとTHCの構造の化学式

ヘンプとマリファナ②法規制

THC含有量の違いにより、法律下において両者は全く異なる扱いを受ける場合があります。

例えば米国の連邦法においては、THCを0.3%以下しか含まないヘンプ、およびヘンプ由来の製品は合法です。一方で、マリファナは非常に危険度の高い「違法薬物」として厳しく取り締まられています。

ただし、実際には各州で規制状況が異なります。近年ではいわゆる”マリファナ”:THC0.3%以上の大麻についても合法化、または非犯罪化とする州が増えています。

カナダやウルグアイでは、ヘンプ・マリファナ問わず全ての大麻が合法です。オランダを始めとする多くの国と地域では、個人使用における一定量の”マリファナ”の所持や使用が認められているケースがあります。

ヘンプとマリファナ③使用目的

ヘンプとマリファナは、その成分の違いに由来して、それぞれ異なる使用法をもたらします。

ヘンプ

  • 紙、衣類、建材、プラスチックなどの工業製品
  • 食用油、大麻粉、大麻種子ベースの製品などの食品
  • CBDオイルやCBDを含む薬などの医薬品

ヘンプは人間の生活になくてはならない植物として万能に活用することができます。日本でも戦前まで広くアサが栽培されていました。七味唐辛子にヘンプの種子が入っているのは有名な話です。

マリファナ

  • ジョイント、オイルなどの向精神作用に由来する嗜好品
  • THCが持つ食欲増進、鎮痛などの作用に基づいた医薬品

マリファナは娯楽用途が一般的と認められていますが、研究によると、さまざまな治療用途での可能性も明らかになっています。例えば米国では、がん疼痛治療剤「サティベックス(Sativex®)」に用いられています。

ヘンプとマリファナ④栽培方法

ヘンプとマリファナは異なる目的で収穫されるため、当然栽培方法も異なります。

マリファナ

マリファナの品種の多くは新芽の花を生成するように品種の特性を最適化しており、管理された環境下で選択的に育てられます。

高品質なマリファナを適切に栽培するには、育成の各段階で植物に最新の注意を払い、適切な温度・照明・湿度などの環境下で正確な条件を維持する必要があります。

ヘンプ

ヘンプは対象的に、そのサイズと収穫量を最大化することに焦点をあてて栽培されます。そのために、ヘンプは通常は屋外で栽培され、マリファナの栽培ほどの手間を必要としません。

まとめ

ここまで、「ヘンプ」と「マリファナ」の非常に複雑な違いを説明してきました。これの用語は、大麻の適切な分類を表現するためには欠陥があるにも関わらず、私達の社会に深く浸透しています。

ヘンプとマリファナについて再教育する必要があることは間違いありませんが、それには非常に長い年月がかかることもまた確かです。

これらを混同することのないよう、個人が意味や違い、大麻との正しい関係を理解することが、日本でのCBDや麻の文化を発展させることに継がるのではないでしょうか。

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