酵母由来のCBDをご存知でしょうか。遺伝子組み換えを行った酵母に糖を与えることで得られる、非大麻由来のCBD(カンナビジオール)です。

大麻の生産はコストが大きい

大麻(または大麻草)として知られる麻植物、「カンナビス・サティバ」は現在多くの国で栽培されています。その主な目的は、医療大麻としての生産や、健康に役立つ成分として近年ブームとなっているCBDを抽出することです。

大麻は、他の多くの農産物と比較して土壌に優しく、環境負荷は比較的低いとされています。しかしながら、現在の大麻の栽培方法は農家や地球にとって、少なからず負荷をかけているのが現状です。

例えば、一部の大麻はビニールハウスで栽培されます。照明や換気扇にかなりの電力を必要としており、カリフォルニア州では、大麻産業におけるエネルギー消費量が州全体の3%を占めたと報告されています。

また、カリフォルニア北西部の一部地域では、大麻農場からの肥料の河川流出による環境汚染の事例があります。このような背景の中、大麻によらない、研究室内で生産できるCBDやTHC、その他のカンナビノイドの生産が実現されました。

低コストで安全、効率的な生産方法

2019年、米カリフォルニア大学バークレー校のジェイ・キースリング教授らの研究チームは、遺伝子組み替えした酵母から、THCやCBDのほか、大麻草には含まれない新しい成分をも生成させることに成功しています。この内容は、同年2月27日、学術雑誌「ネイチャー」で公開されています。

酵母に糖を与えることでこれらの化学物質を生成できることから、大麻草を栽培して成分を抽出する従来の手法に比べ、低コストで安全かつ効率的な手法であると評価されています。

これらの遺伝子組み換え技術は既に新しいものではなく、乳酸、アスコルビン酸(ビタミンC)、および多くの抗生物質やワクチンが、すでにこの方法で生産されています。

大麻の成分を遺伝子組み換え酵母から安定的に供給するための研究はまだ途中ですが、投資も集まっているようです。近い将来、米国やカナダを中心に酵母由来のCBDが製品化されるかもしれません。

非大麻由来のCBD

大麻やCBDの医療的な有用性は世界的に認められるようになってきています。てんかんなどこれまで治療が困難だった症状に対して自然的な治療法として注目されています。

最近では多くの国で医療用大麻が合法化される流れが進んでいますが、日本を含む一部の地域では「大麻」に対して非常に厳しい法律と取り締まりが行われており、この法律のせいで大麻やCBDを利用した製品を国内で製造・販売するハードルは非常に高いままです。

そんな中、非大麻由来のCBD生産方法が注目されています。今回紹介している「遺伝子組み換え酵母」による方法以外にも、大麻に近い植物のファミリーである「ホップ」(ビールの重要な原料として知られる)由来のCBDなどもあります。

非大麻由来のCBDは、大麻規制が厳しい地域でもカンナビノイドの恩恵を受けることが容易になる可能性があります。

しかしながら、大麻由来のCBDと、その他の方法で生成したCBDをどのように扱い、どのように規制するかという法的な環境はまだ整っていません。さらに、「遺伝子組み換え」に対する嫌悪感や安全性の確保、大麻由来CBDと非大麻由来CBDでの効果の差など、課題はまだ山積みです。

非常に大きな可能性を持つこの新しい研究には、今後も注目する必要があるでしょう。