CBD(カンナビジオール)産業の発展や、カナダ、ルクセンブルクの大麻解禁によって、カンナビス業界は注目を集めています。

日本では現在大麻が厳しく取り締まられており、ニュースでも度々芸能人の大麻所持の報道を目にします。

しかし歴史を辿ると、日本で大麻が取り締まられるようになったのは最近のことであり、戦前までは広く栽培されていました。

そんな大麻が禁止されるようになった経緯について、世界(主にアメリカ)と日本の歴史掘り下げていきましょう。

現在の大麻の規制状況

規制の歴史を遡る前に、現在の日本、および世界における大麻の規制状況を確認しておきましょう。

日本の現在の規制状況

日本では、嗜好用はもちろん医療目的でも大麻は違法です。「大麻取締法」によって、大麻の所持栽培譲渡売買等が禁止されています。産業用大麻(茎と種子)に関しては規制対象外です。

また、特別な大麻の取り扱い免許を取得している方のみ、大麻の栽培や研究が可能になっています。

アメリカの現在の規制状況

世界の大麻研究の中心は米国ですが、米国には50の州それぞれに法律があるため、州によって規制状況が異なります。

米国には全ての州を総べる連邦法がありますが、連邦法では、医療用/嗜好用問わず大麻を禁止しています。

2014年には「大麻を合法としている州では連邦捜査局による大麻規制を除外する」法律が制定され、大麻を合法とするかどうかは、実質、各州に委ねられることになりました。

医療用大麻を合法としている州:33

医療用、嗜好用まで合法の州:10州(西海岸などを中心に)+首都ワシントンD.C

医療・嗜好用ともに違法の州:4

このように、米国では多くの州で医療大麻が合法であり、西海岸を中心として10つの州では既に嗜好用大麻も認められています。日本のように医療用・嗜好用問わず違法な州は4つで、対応状況は各州でまちまちです。

近年では大麻解禁の流れが強く、議論が続いています。大麻が部分的に合法な州は、今後も増えていくことが予想されています。

大麻が違法になるまでの奇妙な歴史

もし大麻が完全に「悪」であるなら、近年多くの国で巻き起こっている「大麻合法化」の議論は起こらないはずです。

米国において大麻が違法になった歴史的経緯を紐解くことで、現在私達が大麻に対して持っている「歪んだ観念」を少し理解できるはずです。

アメリカで大麻が違法になるまで

1937年「大麻課税法」が始まり

米国ではじめて大麻が法律で禁止されたのは、1937年の「大麻課税法」でした。「課税法」という名前を不思議に思うかもしれませんが、これは、大麻に法外な高い税金をかけることで、実質禁止したものです。

大麻よりお酒の方が害があるとみなされていた

米国で大麻が禁止される以前、当時はお酒を禁止する「禁酒法」があったのをご存知でしょうか。1920年から1933年の間、米国ではお酒が禁止されていました。

アルコールは、身体に対する害が強い成分です。中毒性も高く、時には人を死に至らせる可能性もあります。現在でも、アルコールやたばこ、大麻などの害を比較する議論を多くみかけますが、禁酒法があった当時は、なによりアルコールが危険な麻薬とみなされていました。

禁酒法時代、ある問題が起きた

政府がお酒を禁止していた時代、ある大きな問題が起こりました。それは、犯罪組織による「密造酒の販売」です。これまで市場で販売されていたお酒が禁止されたことで、アンダーグランドな裏社会のビジネスとなった酒は、犯罪組織に多くの資金を流入させる結果となりました。

結果的に犯罪はむしろ増加し、連邦捜査局が躍起になって犯罪組織を取り締まるような時代が続きましたが、「原因は禁酒法によるものではないか」という議論が絶えず、禁酒法は廃止されました。

アルコールの代わりの捜査対象が大麻に?

一説として、禁酒法の廃止によって禁酒法時代に取り締まりを行っていた多くの連邦捜査官の仕事が減ってしまったため、代わりの捜査対象として大麻の取り締まりがされるようになったと言われています。

メキシコ移民への反発が背景か?

当時、米国内ではメキシコ移民に対する反発が高まっていました。メキシコから多くの大麻草が輸入されていた背景から、大麻の取り締まりを強化したのではないか、という説もあるそうです。

・1937年までは、米国で大麻は禁止されていなかった。
・むしろアルコールの方が害とみなされ、厳しく規制されていた。
・禁酒法廃止の後、代わりの捜査対象として大麻の規制が強化されたか?
・背景としてメキシコ移民への反発感情があったのではないか?
・1937年「大麻課税法」によって、大麻は実質禁止されることになった。

「課税法」から「規制法」へ

薬物規制法に大麻を追加

1937年の「大麻課税法」の後、法外な税金を課すことで実質禁止するのはおかしいのでは、という議論が起こり、1970年に「薬物規制法」の中に大麻を盛り込むことが発表されました。

実証が不十分だったため暫定で発表された

1970年にこの法律が発表された際には、大麻の本当の効果や、大麻が人体にどのような影響を与えるのかに関するデータが不十分でした。そのため、ニクソン大統領は、調査機関による調査を行い、2年後の1972年に内容を変更・調整して改めて施行することを約束しました。

リチャード・リクソン第37代アメリカ合衆国大統領
リチャード・リクソン第37代アメリカ合衆国大統領

1972年の調査結果の受け入れを拒否

しかし、1972年、調査機関から上がってきた報告書は、ニクソン大統領が思い描いていたのとは真逆の内容でした。

それは、「大麻の危険度や依存度はアルコールやニコチンに比べても薄い」というものでした。

ところが、大統領はこの報告書の受け取りを拒否し、大麻を薬物規制法に入れたまま施行することになったのです。それどころか、この時期、大麻は米国の薬物規制5段階で最も危険とされる「スケジュールⅠ」に入れられました。

一説によると、背景には大麻とヒッピー文化との強い結びつきがあったのでは、と考えられています。

1960年代後半にアメリカ合衆国に登場した、既成社会の伝統、制度などを否定するカウンターカルチャーの一翼を担った人々

ヒッピー文化の中には、反ベトナム戦や反体制など、政府の意思にそぐわない思想を持つ人も多かったため、ニクソンは受け取りを拒否したと言われています。

・課税による禁止はおかしいという議論から、大麻が薬物規制法に入れられることに。
・大麻が与える影響のデータが不十分だったため、調査を行った。
・危険度や依存度が低いという調査結果が出たが、政府は受け取りを拒否。
・その背景にはヒッピー文化(反体制)に向けた政府の嫌悪感があったのではないか。

調査結果の受け取りを拒否し、「薬物規制法」に入れられた大麻は、米国の薬物規制における「最も害の大きい薬物」である「スケジュールⅠ」に分類されることになりました。(現在も米政府は同様の立場を貫いています)

スケジュールⅠに大麻が入れられていることに関して議論が止んだことは無い

米国薬物規制

スケジュールⅠ…ヘロイン, LSD, MDMA, 大麻
スケジュールⅡ…コカイン, 覚醒剤 など


スケジュールⅢ,Ⅳ,Ⅴ(医薬品に含まれるような成分)

科学的論拠に基づいて考えると、大麻がスケジュールⅠであることに違和感を覚える人は少なくない。現在でも多くの議論が起こっています。

抑えきれない世論に押され合法化へ

科学的論拠が出てきてしまった

1972年の調査結果は受け取りが拒否されましたが、その後の研究でも、「お酒やタバコと比べて大麻の危険度は低いのではないか」という科学的論拠が多数発表されました。

難病の治療に役立つことが明らかに

その後、これまで治療が困難とされてきた小児てんかんなどの難病の治療に、大麻が役立つことがわかってきました。

麻にはうつ病の緩和、緑内障による失明を防止、てんかんの発作を治療、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などを解消するなど、様々な効果が明らかになっています。

抵抗を持ちながらも、すがる思いで大麻を使用し、病気が治ったというそれらの患者を、逮捕して監禁するという行為は人道的にどうなんだ、という議論が高まりました。このような流れを経て、各州ごとに医療用大麻の解禁へと動いていきます。

連邦捜査局は未だに「違法」の立場

米国としては「違法」の立場を貫いている

このような議論の流れを経て、医療用大麻を中心に、州ごとに合法化が進みました。しかし、現在においても米国全体の立場としては「大麻は違法」のままです。

連邦捜査局に見つかれば捕まる時代があった

米国の薬物規制(Ⅰ〜Ⅴまで)において、大麻は最も危険度の高い「スケジュールⅠ」に分類されており、1972年の指定当初から未だに変わっていません。

そのため、州法で大麻が合法でも、連邦捜査局に見つかれば逮捕されたり、銀行口座を制限されるなどという、アンバランスな体勢が続きました。

2014年、合法な州では逮捕を禁止へ

このような体勢はおかしいのではないか、という議論が高まり、2013年、「大麻が合法な州に限り連邦捜査局による逮捕を禁止する」という法案が提出され、その後2014年に可決されました。

現在では、大麻の規制は各州に委ねられ、少しずつ制度の改善が進んでいます。依然として、大麻の医療効果に対する研究も進んでおり、合法化の流れは今後も続くことが予想されます。

・大麻の医療効果の科学的根拠が出てきたことで、合法化への扉が開かれた。
・州では合法でも、連邦捜査局に見つかれば捕まる体勢が続いた。
・2014年、大麻が合法な州に関しては連邦捜査局の逮捕が禁止された。
・現在では大麻の規制は各州に委ねられている
・米国全体としては、ニクソンの時代から依然として「大麻は違法」の立場を変えていない。

2020年 現在では米国50の州のうち33州で医療大麻が合法、10州と首都ワシントンD.Cでは嗜好用大麻も合法になっています。

合法な州では、街のショッピング施設や専門店で多くの大麻商品が販売され、簡単に購入することが可能です。

日本における大麻規制の歴史

ここまでアメリカにおける大麻取り締りの歴史を見てきましたが、日では、さらにおかしな流れで大麻禁止の号令が出されたことを知っているでしょうか。

GHQが禁止した

ここまで米国での大麻規制、そして合法化までの流れを見てきましたが、日本での大麻の歴史は米国とは全く異なります。

戦前は農家で自由に栽培していた

戦前、日本では自由に大麻の栽培をすることができました。江戸時代には、生活に役立つ便利な「3草」として、紅花や藍と並んで非常に重宝されてきました。

麻は生命力が強く、栽培がしやすく用途が広いことで知られています。実際に、麻布や紙、油などに使用されています。

日本でかつて自生していた、また栽培されていた「大麻」の品種の多くは、陶酔作用があるTHCをほとんど含まない品種だったと言われており、喫煙などの習慣もありませんでした。

大麻取締法(1948年)

ところが、戦後の1948年、GHQが作った法律により大麻が一切禁止されました。これは、日本において麻と国民文化が大きく結びついていたことが理由ではないかとされています。

国家神道と大麻の深い結び付き

神社の麻縄

神社で見かける大きなしめ縄や、お参りの際に鳴らす鐘から伸びる縄。これらは全て大麻の繊維でできています。

その他にも、多くの神聖な行事で麻が重用されてきました。古来から魔除けとして用いられていたり、神様が麻の草木を伝って地上に降りたという逸話も残っています。

GHQは麻と軍国主義の結びつきを恐れた

麻を使う文化と国家神道の強い結びつきはわかりましたが、GHQ曰く「国家神道と軍国主義は密接だったのではないか」ということで大麻を一切禁止する流れになったのだとか。

日本における大麻の規制は世界的に見ても異質

戦後のGHQによって急進的に進んだ日本における大麻規制は、諸外国と比べても非常に異質です。

「二度と戦争を起こさせないように」というGHQの体勢から生まれたものなので、「なぜ大麻が厳しく取り締まられないといけないのか」ということを国民に説明することもなく現在まで来ています。

日本では研究用の大麻も禁止されている

大麻を部分的に合法化している国、例えばイスラエルなどは「医療大麻先進国」として大麻の医療への活用が高度に研究されています。

しかし、日本では大学等で大麻が私達にどんな影響を与えるのかを調べることすらできない状況です。

一部大麻の取り扱い免許が資格もありますが、医師免許等が必要であったりとそう簡単に取得できるものではありません。

このようなあまりにも厳しい大麻規制は本当に良いのか?という議論は、大麻が禁止されてからずっと行われてきていますが、変化の見込みがないのが現状です。

まとめ

ここまで、米国や日本で大麻が禁止されるようになってきた流れを紹介してきましたがいかがでしたか?何に関しても同じですが、現在信じられている情報が全て正しいとは限りません。

近年のCBD産業の盛り上がりや、大麻解禁のトレンドなど、カンナビス業界は今後も成長が見込まれています。

歴史的文脈を知った上で大麻やCBDに正しく向き合うことで、今後の日本におけるカンナビス業界の正しい発展に繋がるのではないでしょうか。